今回からは、実際にACL損傷を疑う場合にどんな評価をするのかと言うことを話していこうと思います。
ACL損傷を疑ったら

現場に出ていて、何かしらケガをした場合、特に膝を痛めた場合にはこれらの評価を行う事が推奨されています。
特に感度特異度が高いものが鑑別する上では有効です。
我々トレーナーは現場に限らず、診断することが禁じられています。
ただ我々トレーナーはファーストレスポンダーになることがほとんどです。
そこでこれらの鑑別を行い、Drへつなぐという重要な役割があります。
Drがいれば一緒に、プレーが復帰可能かどうかを判断することがスムーズです。
しかし、我々地方でトレーナーをしていると、会場にDrがいることはほとんどありません。
プレー復帰が可能かの判断までトレーナーが行うことがしばしばあります。
そこはチームの監督さんやコーチ、本人や未成年の場合は保護者などとも話し合う必要があります。
ただ、プレー復帰か可能かの判断は自分で出来るような基準があると良いと思っています。
明らかに「整形外科的評価で引っかかる」「骨折を疑う」「荷重が出来ない・歩けない」「異常なほどの腫脹がある」などわたしも様々な基準をもってプレーへの復帰を促したりします。
画像で見る

ケガを疑った場合に我々トレーナーは病院受診を勧めます。
そのときにベストなのはMRIがすぐに撮像できるということ。
MRIは診断にはかなり優秀な機械です。
上記画像の白い矢印が正常なACLです。
受傷するとその連続性が断たれ、右の画像のようになります。
こうなった場合、スポーツを継続するのであれば手術を第一選択とされます。
もちろん保存療法での治療効果もあります。

これは長期的にACL損傷者の経過を追ったものですが合併症が生じる確率がかなり高くなります。
保存療法の推奨は上のスライドにあるような場合です。
基本的にスポーツを競技レベルでする人には保存療法は勧めれません。
ただ保存療法で9ヶ月間バスケを続けた高校生を担当しましたが、最終的に軟骨もボロボロになっていて、ACLの手術のみで無く、半月板、軟骨の手術もすることになってしまいました。
保存療法をする場合はDrから本人、保護者などの理解も含めてしっかりと話し合いをした上で同意を得ることが必要かと思います。
理学療法評価

これは個人的に見ないといけないと思っている評価です。
もちろんこれだけでは無いかと思います。
急性期の手術後に個人的に注意している点は、運動認知、空間認知です。
これは競技中という訳では無く、膝の固有感覚も含めて、膝がどの程度動いているか、どの辺にあるのかなどの能力も指します。
ACLは固有感覚、メカノレセプターを抱負に含むと言われています。
広島大学のグループの研究で膝の運動認知に関する報告も多く出ています。
膝だけ良い状態にするのでは無く、膝を含めた身体全体の運動性を変化させていく必要があります。
そのためには評価が重要で、柔軟性や可動性、筋力を細かくみていく必要があります。
筋力検査

一般的に理学療法士の筋力評価はMMTと呼ばれる徒手的に筋力を図るものですが、かなり抽象的で理学療法士の主観が入ってしまいます。
ACLの筋力評価のスタンダードな評価として筋機能測定器という機会を用いて筋力を定量的に評価します。
当院にはCybexという機械が入っていますのでその検査結果が上の図になります。

ちなみにこれがCybexという機械です。
2000万位するそうです。
これのメリットは等速性収縮で筋力を評価できるので膝の角度によって筋機能が測定できること、また大腿四頭筋とハムストリングスのバランスがみれるということです。
肉離れでも重要と言われていますが、大腿四頭筋とハムストリングスのバランス(Q/H比)は大腿四頭筋を100とした場合にハムは60程度あることが理想とされています(四頭筋の6割)。
そういった他のケガの予防の観点からも重要ですし、ACLに関してはスポーツ復帰の基準として患健側比が8.9割以上(左右差なしが理想)あることとされています。
加えて当院では少し低めですが、%BW(筋力の数値を体重比で表したもの)で換算すると四頭筋が250%BW以上ある事としています。
アスレティックリハビリテーションを実施している選手はおおよそ4ヶ月前後でこの基準を満たせるようにリハビリを実施しています。
質問紙票

個人的に大事にしているのはこの質問紙票での評価です。
客観的(筋力やアジリティ能力)な評価に加え、本人がどのように膝の状態やプレーすることに対して感じているかなどを評価できるのでものすごく重要になると考えています。
特に図にもありますが、ACL-RSIは復帰前に必ず取るようにしています。
これはスポーツ復帰に対する恐怖感や不安などを聴取しています。
プレー中に少しでも恐怖感や不安を感じれば、それはプレーに影響されると思っています。
縮こまってしまった状態でプレーすることほど、ケガを起こしやすい状態はないとおもいます。
パフォーマンス能力

これはLESSといってドロップジャンプ時のアライメントを、矢上面(横から見たとき)と前額面(前から見たとき)で評価していくものです。
全てチェック項目があるのである程度の知識がある人がチェックすればほとんど同じ結果になるという報告もあり、簡易で取れる評価として優秀だと思っています。
その他にもアジリティ能力の評価としてTドリル、プロアジリティテストなどがあります。
当院ではこれらとは別のアジリティ評価を行っています、


当院では基本的に京都の原邦夫先生(Dr)と吉田昌平先生(PT)の評価などを参考にさせていただいて基準を作成したりしています。
このアジリティ評価の良いところは3種類のステップが入るところです。
いろんな動きを評価でき、なおかつ時間内に出来るかを評価しています(当院では30秒以内:個人的には25秒以内)。

また少し古い論文ですが、膝機能を動きの中で評価する上でこの評価を個人的には行っています。
左右共に行い、タイムや距離を評価して左右差が無いかを確認していきます。
難しいですし、リスクが高いので十分に出来る選手にのみ実施していきます。
まとめ
今回は評価についてまとめました。
もちろんこれだけではないですが、ACL損傷を疑った際や、術後の評価などではしっかり見ていかないと競技レベルでスポーツ復帰した際に、再受傷する可能性が高くなります。
再受傷すると、本当に選手もつらいですし、こちらも申し訳なく思います。
そんな選手を何人も見てきました。
いまさらですが、ACL損傷は手術すれば、競技復帰まで約9ヶ月を要します。
高校生で言えば高校3年間の総体までがおおよそ26ヶ月です。
そのうちの9ヶ月をリハビリに費やすというのはとてもつらいことです。
そんな選手を増やしたくないので、現場に出ることも多くなりました。
まだ現場でしっかりと予防まで踏み込めていません。
少しずつ、現場でも一般的になるように活動していきたいと思います。
次回は治療や予防について触れていきます。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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